ビッグバン
今の宇宙のはじまり
ほとんどの銀河は地球から遠ざかっており、宇宙は膨張している」という衝撃的な研究結果を、1927年に宇宙物理学者のルメートルが、1929年に天文学者のハッブルが、それぞれ独自に発表しました。
物理学者のガモフは「宇宙が膨張しているならば、時間を逆転させると宇宙は収縮し、時刻ゼロまで行くと宇宙は一点に集まる」と指摘。宇宙は超高温で超高密度な状態の一点から大爆発=ビッグバンで始まると主張したのです。
当時は一般に、宇宙は変化しないと考えられていたため、ビッグバン理論には強い抵抗が示されました。しかし、1964年、物理学者ペンジアスとウィルソンは偶然、正体不明の電波が空の全方向からやってくることに気づきました。実はガモフの弟子は、ビッグバンが本当にあったなら、その名残が電波として宇宙に満ちているはずと予言していました。2人が発見した電波こそ、「宇宙背景放射」と呼ばれるビッグバンの名残で、ビッグバン理論に確証が与えられた瞬間でした。
このように今の宇宙は、約138億年前、ビッグバンの急膨張から始まりましたが、その後の研究でビッグバンだけでは今の宇宙の姿は説明がつかないことが分かりました。その問いに答える有力な仮説が、ビッグバン直前の瞬間に起きたという「インフレーション理論」です。一瞬のうちに、極小の点が太陽系以上の大きさへと急激に膨張し、そこからビッグバンが始まったと考えると、現在の観測事実を矛盾無く説明できるからです。
その後の観測で、均一だと思われていた宇宙背景放射に、ごくわずかな「濃淡」があることも判明しました。宇宙が始まった段階での微少な「不均一」がインフレーションとビッグバンを通して膨張し、宇宙の中で物質の濃淡が生まれ、やがては星や銀河を生み出すきっかけとなったのです。
人は星のかけらでできている
元素は星が作る
宇宙は今から約138億年前に誕生し、ビッグバンによって急激に膨張しました。誕生の高エネルギーの中で物質が創られ、数10分後には水素とヘリウムの「原子核」、38万年後にそれらの「原子」が生まれました。さらに数億年後、この物質が引き寄せ合い、初めての恒星ができたのです。
恒星の内部では盛んに「核融合反応」が起こり、光と熱を発散します。その際、合成されるのがヘリウムです。核融合によって、水素からヘリウム、ヘリウムから炭素と、順番に重い元素がつくられます。大きな星では最終的に鉄がつくられます。恒星内部の核融合反応でつくられる一番重い元素は鉄です。これらの元素は、恒星の内部に蓄えられますが、やがて星の寿命が尽きると爆発を起こし、宇宙空間に放出されます。
では、鉄よりも重い金属は、どこでつくられるのでしょうか。最新の研究では、恒星の爆発現象や中性子星(原子を構成する粒子である中性子がぎっしり詰まった星)の衝突・合体が、重金属を生み出すことがわかりました。特に中性子星が衝突した際には、大量の中性子が、金や銀、レアメタル、ウランなどの重い金属をつくる“材料”になります。
今から約46億年前、100億年に近い歳月をかけて宇宙空間に放たれた、これらの元素が集まり、太陽系ができました。そして、その中で、わたしたち人間も誕生しました。わたしたちは、アミノ酸やタンパク質といった有機物からできています。この有機物は、水素、酸素、炭素といった元素からできています。
わたしたちは、長い宇宙の営みによってつくられてきた貴重な「星のかけら」でできているのです。
“地球外”生まれのアミノ酸
小惑星「リュウグウ」から届いた
宇宙の玉手箱
日本が世界に誇る小惑星探査機「はやぶさ2」。2019年12月、小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターン成功の一報は世界中の研究者を沸かせました。サンプルは世界各国の研究機関等に送られ、今後の分析結果に注目が集まっています。
そして2022年、サンプルから23種類ものアミノ酸が発見されたという論文が発表されました。発見されたアミノ酸には筋肉のエネルギー源であるロイシンや、うま味成分で知られるグルタミン酸など私たちが生きる上で必要なアミノ酸も含まれていました。
これまで、隕石からもアミノ酸は発見されていましたが、隕石は大気圏突入から地上への落下、そして回収されるまでの過程で地球環境に触れてしまいます。しかし、「リュウグウ」のサンプルは宇宙領域で回収できたことで世界で初めて全く地球環境に触れていない物質からアミノ酸が見つかったことになり、生命体の素材となるアミノ酸が“地球外”でもつくられていることがわかったのです。さらに、「リュウグウ」は太陽系ができた頃から存在し、高温などの変化を受けていないこともわかりました。
今回「リュウグウ」から得られたサンプルはたった総量約5.4グラムですが、今後太陽系の成り立ちを研究するための世界標準物質になっていきます。生命の起源を探るうえで、「リュウグウ」のサンプルはこれまでの科学に大きな変化をもたらす可能性を秘めている、大昔の宇宙から現在の私たちに届けられた「玉手箱」といえるのです。また、サンプルの約40%は将来さらに分析技術が進化した時に研究できるよう、「次世代」への「玉手箱」として大切に保管されることになっています。
史上初、火星で
ヘリコプターが飛行
「恐怖の7分間」に耐えた
パーサビアランス
パーサビアランスはNASA(アメリカ航空宇宙局)が火星に送り届けた5台目の探査車です。2020年7月30日に打ち上げられ、太古の火星に水が豊富に存在した証拠があるとされるジェゼロクレーターに2021年2月18日に着陸しました。
探査車は、熱シールドに守られながら時速約1万9000キロの速度で大気圏に突入し、次いでパラシュートを使って減速、そして最後に「スカイクレーン」と呼ばれる装置で吊り下げ着地という3段階で、最後は時速約2.7キロまで減速して目的の地点に着陸しました。
地球との通信には片道でもおよそ10分を要しますので、着陸を開始してから着陸するまでの7分の間に何かが起こっても、地球にいるNASAチームが介入することはできず、事前にプログラムした自律的な運用に任せるしかありません。4代目のキュリオシティが成功したやり方ですが、わずかな変化によって大失敗に終わる可能性もありました。関係者はこの時間を「恐怖の7分間」とよんでいましたが、見事に成功させました。
約2年かけて行われる探査では、装備した7つの観測機器を用いてクレーター内の岩石や土の特徴を調べ、微生物の痕跡を探ります。また、約30点の岩石サンプルを回収する予定で、2031年以降の欧米合同ミッションによってそのサンプルを地球へ持ち帰ることが計画されています。
また、パーサビアランスに搭載されている小型ヘリコプター・インジェニュイティは、2021年4月19日に初めての飛行に成功しました。地球以外の天体で人類がヘリコプターを飛行させたのは初めてのことです。
当初、多くの関係者は、火星の大気密度は地球の約100分の1しかないため、「火星で飛ぶことは難しい」と考えていたそうです。
宇宙を飛びかう凶器
深刻な宇宙ゴミ除去への挑戦!
人類初の宇宙空間への人工衛星打ち上げから長い年月を経て、宇宙開発はめざましい進展をとげてきた一方、今、深刻な問題となっているのが、宇宙ゴミ(スペースデブリ)です。地球の衛星軌道上を周回している寿命の尽きた人工衛星やロケットの切り離し時に飛び散った金属片のことです。
みなさんは、宇宙ゴミというと、ゴミがふわふわ浮いているようなイメージをもつかもしれませんが、実際は、秒速7~8キロという猛スピードで地球の周りを回っています。このスピードだと、ごく小さなネジでも厚さ10センチの金属板を打ち抜く威力があり、まさに宇宙を飛び交う砲弾であり、宇宙船の外装などは木っ端みじんになる凶暴なゴミなのです。その数は、10センチ以上のものだけでも2万2000個ほどあり、数センチや1ミリ程度のものまで含めると、その数は1億個以上になるとも言われています。しかも、それは年々増え続けています。これらが、人工衛星にぶつかったら・・・。これからの宇宙開発を妨げる危険もはらんでいます。
これに対し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)では、まずは、大型ゴミの除去をめざした宇宙ゴミ対策を計画しています。大型ゴミは、元々ロケットや人工衛星です。この大型ゴミに捕獲用の小型人工衛星をドッキングさせ、推進ロケットを使って、軌道を変え、なんと大気圏に墜落させて燃やしてしまう作戦です。
ただ、この推進ロケットエンジンに相当な費用がかかるため、エンジンを使わない低コストな除去技術も研究されています。人類が自ら生み出した凶暴なゴミへの挑戦が今、はじまっているのです。